2011年10月24日

行商人シン

 その行商人は東へ向かっていた。

 行商人は東へ向かい、西へ帰る。かつて父と共に歩いた道を。彼には大雑把な地図しかないが、どこに人が居て、何を必要としていたか良く覚えている。そして今何が「旬」なのか。道々で自然と知ることが出来る。それを頼りに、何を、どのくらい持って行けば路銀を得て、旅を続けることが出来るのか。彼は感覚で計算することができた。父は家も金も宝石も残してはくれなかったが、経験と知恵を彼に与えたのだ。

 彼にとっては仕事は風で、自身は一枚の羽のよう。つまり旅路を風に導かれて流れて行くが、彼の人生だった。彼は「シン」と言う。父の祖先の言葉で、「強さ」「誠実さ」「骨」という意味があった。

 彼はハーブサールの街に居た。次の大きい街はバルーヌ。バルーヌは歓楽街のある比較的大きい街だ。今日も酒場に「バルーヌの女でも抱きに行くか」と大声で話をしていた奴が居た。自然、バルーヌには疲れた女が多い。疲れた女達が、今度の客だ。

 女達にはどういうわけか、掃除道具がよく売れる。父は、彼女達は「穢れ」に対して人一倍敏感なのだと教えてくれた。部屋や、自分の家の周りが奇麗だと、運が良くなる。いいことがあると、簡単に言えばそう「信じて」いるらしい。とりあえずバルーヌの疲れた女達の所へ行こう。シンはハーブサールの市場へ赴く事にした。
 
posted by KIMITO at 00:02 | Comment(0) | 行商人シン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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