2011年10月24日

ジュリアーノ

 どこの街でも広場へ行けば、修行中の乞食坊主が必ず居る。宗教は色々だが、基本的には皆同じだ。「ありがたい話をして糧を得る。」坊主の基本的な仕事であり、究極の仕事でもある。単純だが奥が深い。

 坊主は事情通だ。職業柄相談を受ける立場だから、裏話に詳しい。情報を坊主から引き出すのは容易ではないが、その辺は聞き方一つという物だ。シンは長い旅路で坊主との話し方を心得ており、かれらの喜ぶ聞き方をよく知っていた。

 公園には何人か坊主が居たが、シンはその中の比較的若い坊主に目を付けた。


「お坊さん。ちょっと話を聞いてもらっていいかな。忙しいかい?」


 切り出しも大切だ。坊主がボケッと座っているからといって、暇人扱いするとヘソを曲げられてしまう。彼らは世界の真理探究に忙しい・・・らしいので、一応忙しいかどうか聞くのがエティケットだと、シンは心得ていた。


「いえ。大丈夫ですよ。私でよければなんなりと・・・」


 物腰の低い坊主だった。良い話が聞けそうだ。シンは思った。「坊さん。バルーヌには夜鷹がたくさん居る。知ってはいると思うが。彼女達の中には、自分を傷つけたりするものも居るらしい。悩めるなんとかという奴なのかな。俺は行商人の身だが、出来れば世の為人の為に何かしたいと思ってはいる。そこで、彼女達の役に立つものを持って行ってやりたいんだ。何を持って行ってやれば喜ぶかな。教えてくれないか。あんたの考えを聞かせてほしい。」

 坊主は少し考えてから、目を伏せて語りだした。

「自分を傷つけるという行為が何を意味しているのか・・・。この体は自分の体ではない・・・そう強く思おうとしているのか、あるいは、人を傷つけられないから、自分を傷つけているのか・・・。きっと人それぞれ、理由は違ってくるでしょう。共通しているのは、体を売ってはいけないという、強い倫理観があるということだと思います。我々は体を売ることは良くないことであるという倫理を説きます。それが彼女達にとって重荷になっているのだとしたら、我々の説く倫理が彼女達を苦しめているのだとしたら、彼女達に必要なことは、倫理を前向きに捨てるということなのでしょう。」

 シンには坊主の話は少し難しかったが、言っていることは分かった。そしてなかなか面白いことを言う坊主だとも思った。

「坊さん。あんたの話はとても為になる。そして面白い。名前を聞いて良いかな。俺はシンだ。」

「ジュリアーノです。」

 坊主は少し照れたように答えた。よくよく見てみれば随分若い。20に満たないようにも見える坊主だった。なるほど話はわかった。しかしシンは坊主ではない。だからもし売れるのであれば、自分を傷つける女達にカミソリを持って行くことも辞さない。カミソリを持って行かない理由は、単に利幅が薄いからだ。

「ジュリアーノ。俺は路銀が要る。だから夜鷹が欲しがる物を売りたい。出来ればそれが嬢の為になるものがいい。何を持って行けばいいか、教えてくれ。参考になる話でもかまわない。」

「・・・参考になるかどうかわからないのですが、東北の未開の部族出身で、戦の捕虜として連れてこられた夜鷹の者達が居ました。彼女達は太鼓や踊りが大好きでした。彼女達は誇り高く、体を売る事は尋常ならざる心の負担だと思いましたが、他のどの街の夜鷹よりも明るく、決して自らを傷つけるようなことはありませんでした。」

 太鼓・・・。

 ピンと来なかったが、何となく何を仕入れればいいのか、ジュリアーノの話で、シンの行商人の鼻がうずきだしたのだ。
posted by KIMITO at 08:56 | Comment(0) | 行商人シン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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